100年に一度の大変革の時代を、ともに乗り越える 100年に一度の大変革の時代を、ともに乗り越える

自動車サプライチェーン支援室
近澤 保
情報を集め、仲間を集め、取引先に飛び込んでいく。

自動車業界は今「100年に一度の大変革の時代」だと言われている。「電動化」「自動化」「コネクティッド」「シェアリング」といった方向性は指し示されているが、実際に技術や市場がどうなっていくのかは、まだ誰もわからない。しかし企業は、そのような状況の中でも変化をしていかなければならない。ダーウィンの進化論にある『生き残ることができるのは、変化できる者である』との言葉のように、だ。
愛知県の主要産業である自動車産業。名古屋銀行の取引先にも、数多くの自動車関連企業が存在する。従来は各担当者が個別にアドバイスをしてきたが、状況の変化に伴って、支援を加速させる必要がある。そう判断した名古屋銀行では、2019年に金融機関としてはいち早く、専門部署として「自動車産業サポート室」を開設。2022年1月には「自動車サプライチェーン支援室」に再編し、地域の自動車サプライチェーンに対し、より深い支援を行う体制を整えた。

産業構造を明確にし、取引先を正しく把握する 産業構造を明確にし、取引先を正しく把握する

「自動車産業サポート室」の創設メンバーでもある近澤。着任前は、支店の渉外課長だが、コンサルティングファームに出向したり、農業ファンドで投資案件を組成するなど、取引企業の事業再構築の計画立案などを経験していた。「脳みそが擦り切れるくらい、取引先のことを考えていた」と当時を振り返る近澤は、特別に“車好き”という訳でもなく、三河エリアなど自動車関連企業が多い支店で勤務した経験もない。
自動車産業の豊富な知識もネットワークもない近澤が最初に取り組んだのは「情報集め」と「仲間集め」である。サプライチェーンという言葉に象徴されるように、自動車部品は最終的な組立に至るまで、いくつもの部品メーカーを経由している。ネジ一つから始まり、組み立てた部品を次の企業に納め、さらにいくつかの部品を組み立て、次の企業に納めていく。その産業構造を明確にするため、徹底的にヒアリングを実施。それにより取引先の強みも弱みも見えてくる。そして次の手を打つために、自動車関連企業の出身者を招く一方で、外部の自動車系コンサルファーム、行政や国の機関、産業界や大学、他の金融機関まで巻き込んでいった。

選択肢はいくらでもある。しかし気づけなければ、選択できない 選択肢はいくらでもある。しかし気づけなければ、選択できない

自動車の電動化によって、新しい部品が必要になる一方で、不必要になる部品もある。近澤たちメンバーはまず、大手自動車部品メーカーから小規模な企業まで、その流れを徹底的に把握していった。さらに取引先企業のコア技術を明確化。その技術を転用することで、電動化で新たに使用する部品や、自動車以外の部品の製造ができないかを探っていく。例えば乗用車ではなくクレーン車やパワーショベルなど重機に転用できないか。サイズを大きくして飛行機の部品として使えないか。医療用機器で同じ技術を使って生産しているものはないか。そういった他産業へも視野を広げ、可能性を一つひとつ見つけていく、気の遠くなるような作業だ。当然ながら、どのような部品も、すでに生産している企業はある。「そこに割って入るだけでは大きな価値は生み出せない。新技術と既存技術を組み合わせることも検討している」と近澤。最適な選択肢を探す日々は、むしろこれからが本番だ。

現状を改善しながらも、まだ好調な企業と危機感を共有していく 現状を改善しながらも、まだ好調な企業と危機感を共有していく

ある程度先を見据えながら、一方では足元の地盤固めが欠かせない。企業が新たな機械を購入するにしても、金融機関からすべて借り入れるのではなく、補助金などを活用した方が、借入金額は少なくてすむ。お金を貸す側である銀行からすれば利益相反のような考えだが、近澤は「企業の健全化、成長こそを追い求めている」と意に介していない。「取引先のメリットになることを止めるような行風ではない」とも断言した。例えば数十人規模の企業では、まだ5Sと呼ばれる整理・整頓・清掃・清潔・しつけを重視していない場合もある。原料のロスが減れば利益に直結するし、キレイな職場環境であれば採用にもプラスに働く。これを支援するチームが「自動車サプライチェーン支援室」にはある。小さなことに思えるかもしれないが、これも企業課題の解決につながる支援だ。一つ一つ、一歩一歩。今はまだ既存製品で売上をあげられている企業ほど危機感は薄い。そのリスクに気づかせることも近澤は自分たちの役割だと思っている。

自分が本気でなければ、相手も本気になってくれない 自分が本気でなければ、相手も本気になってくれない

「社長の最良の相談相手になりたい」と、近澤は常々思っている。経営者にどれだけ危険性を問いても、言われた側は自らの事業を否定されたような気分になってしまうことがある。仮にそれが最適な提案だとしても、信頼されていない人からの提案は受け入れたくないだろう。だからこそ近澤は積極的に赴き、話をする。どれだけ油で汚れようと、工場の中まで入っていく。事業再構築といった大きなことを目指しながらも、目の前にある小さな課題を解決することに手を抜かない。一見すると非効率な様にも思えるが、最良の相談相手になるためには相手の懐に飛び込み、こちらも腹を割って話をすることが欠かせないと考えている。まずは今を大切にする。人を大切にする。「たぶん恋愛と同じ。こっちが本気で相手のことを思っていないと、相手は本気になってくれない」から。100年に一度の大改革の時代。それを従来の方法が通じない不遇の時代と捉えるのか、新しい方法に取り組める挑戦の時代と捉えるのか――。近澤は、後者だ。