ノウハウを共有し取引先の支援を強化する ノウハウを共有し取引先の支援を強化する

静岡・名古屋アライアンス事務局
宮野 貴仁
提案力を高めることで、取引先に、もっと貢献できる。

日本各地に、その土地の名前を冠した銀行がある。名古屋銀行も、その一つだ。それぞれの地域に特性があるように、それぞれの銀行にも特性がある。もちろん、一つとして同じ銀行はないが、類似した地域性を持つエリアは存在する。例えば愛知県と静岡県。産業のうち製造業の比率が高く、なかでも自動車をはじめとした輸送用機器の占める割合が高いという共通点がある。それは同時に、類似した課題を抱えている企業が多いともいえる。100年に一度の大変革期と言われている自動車産業。これは全自動車関連企業にとっての命題だ。東海道新幹線、東名高速道路、新東名高速道路といった交通網で結ばれていることから、両県をビジネスエリアとしている企業も多い。「もっと取引先のためにできることはないか」その思いを突きつめたとき、他県を地盤とする銀行とのアライアンスという答えがあった。

取引先の経営者たちに、たくさんのことを教わった 取引先の経営者たちに、たくさんのことを教わった

宮野は学生時代、企業の経営管理職を志望していた。様々な企業を調べるなかで、金融機関の担当者として外部からではあるが経営に関わることができることを知った。「それなら地元である愛知県で一番の金融機関に入りたい」と選んだのが、名古屋銀行である。法学部出身であり、金融に関する知識はゼロに近い。「研修が充実していたから、なんとかスタートを切れた」と振り返るが、実は「取引先の経営者の方々に多くのことを教わった」という。名古屋銀行のある愛知県は、都市銀行、地方銀行、信用金庫がひしめく、金融機関にとっては激戦区だ。法人営業においては、取引先とは融資が主な関わりになる。扱うのはお金、しかも金利は他の金融機関とほぼ同じ。「名古屋銀行を選んでもらうにはどうしたらいいか」と必死で考えた結論は「自分を選んでもらうこと」だった。メーカーの営業だったら、商品で決まるかもしれない。しかし金融機関は人で決まる。そこに宮野は、やりがいを覚えたのだった。

アライアンス締結によって、より貢献できる銀行へ アライアンス締結によって、より貢献できる銀行へ

二つの支店勤務を経て、宮野は経営企画部へ異動になった。学生時代からの目標であった、企業の内側から経営管理に関わる役割を与えられたのだ。それは「まさか自分が」という驚きとともに、「自分の気持ちを覚えていてくれたのだ」という喜びを感じた辞令だった。経営陣を支える立場として、経営目標や経営計画をつくる。仕事が楽しい。そんな毎日を過ごしていた宮野に「絶対に誰にも言うな」という言葉とともに伝えられたのが、静岡銀行とのアライアンス締結であった。青天の霹靂と言えるほどの事態が訪れた。2022年4月に締結された「静岡・名古屋アライアンス」は、静岡銀行と名古屋銀行が双方の持つノウハウやネットワークを活用することで、顧客に対するより良い支援体制が構築できると判断されたことによって締結された。

取引先の販路拡大やサービス拡充が多分野で進んでいる 取引先の販路拡大やサービス拡充が多分野で進んでいる

締結から約2年。大きく分けて4つの分野で取り組みが進んでいる。一つ目は両県主要産業の取引先支援の強化につながる協業。両行が共同体を組んで企業に融資するシンジケートローン、M&A案件の相互紹介、ベンチャーファンドへの共同出資など、それぞれの情報とノウハウを活かした取り組みだ。二つ目は両行の顧客ニーズのマッチング。両行の顧客が出展できるマッチングフェアを企画し、双方の顧客の取引先拡大と売上向上につなげた。三つ目は保険商品の開発や、大規模災害時の預金払戻の相互支援など、相互の経営リソースを活用したサービスメニューの拡充。四つ目は人材育成分野だ。事業再生やシステムなど双方の得意分野のノウハウ共有や、中堅クラスの交流や合同研修なども行っている。

すべては、取引先のためであり、地域のためである すべては、取引先のためであり、地域のためである

顧客の産業構造が似ているとはいえ、両行に違いはある。その違いこそ、それぞれの特徴であり、ある意味では強みだ。その違いを出し合うことで、両行ともに強くなれる。その成果とは――取引先に対する提案力だ。これまでになかったノウハウやアイデア、サービスメニューを駆使して、新しい付加価値を提供する。両行の取引先同士をつなげることで、販路拡大も支援できる。
これは名古屋銀行のためではない。宮野にとっては「新人時代に、たくさんのことを教えていただいた取引先への恩返し」である。当時の取引先に直接提案できるわけではないが、今は仲間がきっと恩返しをしてくれていると信じている。「自分を選んでもらうこと」とは、世間話や趣味の話を楽しく話せる関係性を築くことではない。相手に必要だと思える情報を提供し、適切なアドバイスを送り、その企業が経営基盤を固め、経営者と共に未来を創造し、頼られる存在になることだ。そのために「静岡・名古屋アライアンス」はあると宮野は考える。すべては、取引先のために。この地域の、未来のために。